【誕生日ぷれぜんと】

 

 もしかして、コレはオレ宛の誕生日プレゼントなのか…!?

 

 

 怪盗の待つビルの屋上に駆けつけた新一は、ドアを開くなりそう思った。

 屋上のフェンスに気だるげに寄りかかった怪盗の青いシャツの襟元が肌蹴られ、きれいな鎖骨がのぞいている。シルクハットは床に落ち、柔らかな髪の毛が夜風に揺れている。

 それだけでも十分、普段の一分の隙もない姿をした怪盗と違いすぎ、そのギャップにどぎまぎしてしまうというのに……

 

 ――怪盗はどういうわけか赤い布で目隠しをしていた。

 

 よく見れば、その布は彼自身のネクタイであった。目が隠されている事によって、整った顔立ちやら唇の形が強調されて見える。五感の一部を封じ、凛とした気配を乱して佇む姿は、倒錯的かつ扇情的だった。

 一応、おつきあいなるものをしていて恋人同士のはずなのに、日常はおろか彼の怪盗のお仕事後にしか逢うことができず(しかも暗号を読み損なったら会えないという制約つき)、キスはおろか手をつないだことさえほとんど無いという、清く正しい交際(?)をしている探偵と怪盗である。

 初めに探偵のほうが一方的に惚れ込んで、口説いて口説いて口説き続けて、やっとの思いで手に入れた恋人だった。怪盗に愛想をつかされたら嫌だったので強請れなかったが、本当は、日常でだって会いたかったし手をつないだりキスをしたりそれ以上のモゴモゴモゴだってしたいと探偵は思っていたのだ。

 探偵がそう思っていることを、怪盗はお見通しだったのだろう。

 だからこれは探偵の誕生日に怪盗が一念発起して「私をさしあげますv」とか言ってくれるって事に違いない!

 そう思って、新一は胸を高鳴らせた。

「いいえ、私は誕生日プレゼントと違いますから」

 すぱんと怪盗が探偵の夢を断ち切る。がくんと新一はうなだれる。目は見えていなくても探偵の考えはお見通しなのか。これもある意味、愛と言えない事も無い。でも、そのちょっと乱れちゃった格好はいったい何事かと、新一は声を大にして問いたい。

「私が視覚を封じているのは極めて個人的な事情からです。暗闇で見えなかろうと思っていたのに、悪趣味にもあれをライトアップしているところがありましてね。おかげで危うく地上に転落するところでした。やはりこの忌々しい時期は外出しないに限ります」

 物憂げで、あいかわらず誘っているとしか思えないような姿の怪盗であったが、言っている内容はさっぱりだった。

 ――暗闇で見えないと思った?(――何を?)

 ――ライトアップ?(――だから、何を?)

 ――ていうか地上に転落するところだったって…?

 不機嫌に意味不明なことをいう怪盗の言葉に首をかしげた新一だが、かろうじて意味が拾えた文脈からするに、外出したくないのにわざわざここに来てくれた=探偵の誕生日に会いに来てくれたという事になるのではなかろうか?

 怪盗の愛を感じ、新一の胸はいっぱいになる。

「そうか、それなのにわざわざ会いに来てくれてサンキュな」

「いえいえ、コイビトとして当然の義務ですから」

 笑顔で言えば、事務的な口調であっさりとそう返される。

(義務? 義務感からなのか…!?)

 ほんの少し複雑な気分の新一だったが、それを口にしてしまえば「名探偵の認識では誕生日に会いに行くのはコイビトの義務に含まれないのですね。では次回からは来るのを止めにします」と言われてしまうに違いないので、笑顔を作ってこくこくと頷いた。(←似たような失敗をして学習した)

「あなたへの誕生日プレゼントはこちらです」

 そう言って、怪盗が指を鳴らす。

 どこからともなく平べったい四角形の箱が現れて探偵の頭を直撃した。重くて痛かった。おそらく目隠しをしているせいで狙いがはずれたのだろう……と新一は思っておくことにした。

 何はともあれプレゼントだ。怪盗が初めて自発的に送ってくれたプレゼントに、新一の胸に喜びが湧き上がる。

「ありがとうな、キッド。すっごく嬉しいぜ。何が入っているんだ?」

「家に帰ってから、誰も来ないことをきちんと確認した上で開けて下さい。そこが寝室だったらなお良いです」

「…………?」

 誰にも見られないようにと言う事は、KIDに関係あると知れるような品物なのだろうか? でも何で寝室?

 探偵として推理力に相当の自信があり、怪盗と互角に渡り合えると自負している新一だが、コイビトなキッドの考える事を見通すことは困難だった。

 キッドはどこか得意そうに胸を張り(というか目の毒だからその格好はどうにかならないのだろうか)嬉々とした声で言った。

「それは私が自ら書き記しました『教本』です」

 ――は? 『教本』?

 わけわからんという顔をした新一を置いてきぼりにし、キッドは立て板に水な調子で説明する。

「医学的見地からの考察や、その筋の熟練者たちのアドバイスなども取り入れ、灰原女史の協力の下私自らが検体となって投薬実験を行ったり、さらには私一人で実地訓練を行った体験も大いに盛り込んだ、非常にありがたーい『教本』なのですよ。
 来月の21日に実技試験を行いますので、しっかりとお勉強してきてくださいね。ちなみにあまりに出来が悪かった場合、再試験は受け付けませんのであらかじめご了承くださいませ」

 そして、「では」と短く告げると、目隠しをしたままスタスタと歩いて帰っていってしまった。

 良くわからない展開にぼうっとしていた新一は、ばたんとドアが閉められた音で我に返り、そういえば一言も「誕生日おめでとう」と言ってもらえていなかったことに気付いて凹み、けれど何だかわからないがプレゼントを貰えた事に気持ちがあっというまに浮上し、プレゼントをぎゅっと抱きしめるとヘラヘラと笑いながら頭に花を花を咲かせたような様子で帰っていったのだった。

 

 そうしてキッドに言われた通り、一人だけの家できっちりと施錠して携帯の電源まで切って寝室に篭り、おもむろにプレゼントの包みを開け……そのままがくりとベッドに沈没した。

 その『教本』のタイトルには、こうあった。

 

 

 

 ――『男性同士の性交渉の手引き』、と。

 

 

 

END

 

なるはせ様コメント
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 ギャグのような下ネタのような、でも真面目な話ちゃんとした知識無しでいたすのはよろしくないと思うのですよ。
 ちなみに探偵は、怪盗がどんな決死の思いで子供の日の前日に外に出てきたのかとか、6月21日が何の日であるかとか一切知りません。

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