サイエンスの幽霊 ―The ghost of a science―
「……のやろ…」 丁寧な、しかし筆跡判定に出したとしても何の特徴も見出すことの出来ないであろう、流麗で癖のない文字。短い文章を読み、江戸川コナンは忌々しげに、それの書き記された手触りの良い上質紙を、力任せに、感情の赴くままに握りつぶした。
いつからだろう。 彼との間に。 彼の立ち向かう敵と、己の敵に、共通項を見出したのは。 そして、いつからだろう。 「空」と「海」ほどにかけ離れたあの存在に、己に酷似する部分を見出して。 そして、その存在の持つ「謎」だけでなく、彼という存在そのものに惹かれるようになったのは。
月の照らす夜空をステージに飛ぶは白き鳥。 「子供」の異名を取り、探偵も警察も手玉に取り。 遊ぶように。しかしその胸に、その瞳の蒼に。悲壮なまでの、痛いまでの真摯な願いと決意を秘めて。 危ない端を渡る日常で、幾度と無くニアミスし。探偵と怪盗という相対する立場にありながら、時に協力したこともある。 ある意味で、誰よりも互いの力量と信念を信頼し合っている「鏡面」の向こう側の存在。 もうひとりの、自分。
『同じじゃねーか! 海のブルーは空のブルーが映ってんだろ? 探偵や怪盗と一緒さ…天と地に別れているようで、もとをただせば人がしまい込んでいる何かを、好奇心という鍵を使ってこじ開ける無礼者同士…』 『バーロ…空と海の色が青いのは、色の散乱と反射…全く性質の異なる理由によるものだ…一緒にするなよ!』
先に自分と彼が似ていると嘯いたのは怪盗で。 それを鼻で笑い飛ばしたのは他でもない、探偵である自分自身だった。
そして、今。 互いの共通項と相似性を正しく理解していながら。 対のような存在を認知していながら。 それでも「海」と「空」は、互いに決して混じり合わない存在だと、探偵の希求も激情もつれなくあしらうのは、怪盗だった。
一方的に、助けるくせに。 一方的に、手を貸すくせに。
自分の領域には、決して手出しもさせない。
「反物質って知ってるか?」 滴る赤を、手で押さえながら。 蒼白な顔で。 手を差し伸べようと近づく探偵から、それでも崩れない不敵な笑みを浮かべつつ、探偵が近付いた分だけ後退さっていく、白。 明確な距離を測るように。 「物質aと反物質a'は、外見は全く同じである。電荷のプラス・マイナスが逆であることを除けば、見た目も重さも何もかもが同じで、全く区別が付かない…」 「バーロ…! んな時に何の話を…っ!!」 撃たれた左肩を、無事な右手で押さえながら。額に滲む脂汗に、長い前髪を張り付かせながら。それでも決して崩れない、鉄壁のポーカーフェイス。 「そして物質と反物質は…接触すると、膨大なエネルギーを放出して互いに消滅する……」 トン、と。後退する怪盗の踵が、屋上の転落防止用の柵に当たった。 「いいから、こっちに来い! 捕まえるつもりはねぇって言ってんだろ!? テメー怪我してんだぞ!?」 一見追い詰められたような怪盗に、探偵が駆け寄る。 「……っ!?」 強引に引き寄せようと、探偵が伸ばした手は、空を切った。 「俺と、お前だよ…」 「――バッ…!!」 口元に酷薄な笑みを刻んだまま、赤に侵食されていく白い翼が夜の、黒よりも昏い蒼の虚空に飛んだ。壮絶な、不敵な、不遜な笑みを映いたままで。――夜の闇へ、墜ちた。 「KID!!」
――同じであるからこそ、決して触れてはならない。遭遇してもいい。接近してもいい。しかし、接触ることが――混じり合うことは、絶対にあってはならないのだ。
『PS. 遠き未来へ至る、互いの検討を祈る。
君という存在と、130億年前の、あの懐かしき太古の爆破を想う。 君と触れ合うことは、決して無い。
QUIT. 2004.11.21. GUREKO
公式設定で「うりふたつ」な探偵と怪盗。反物質のようだな…とか思ったりしただけです。探偵・工藤新一の対角。鏡面体な黒羽快斗(乾笑)現実には(少なくとも、現在の科学技術では)「反人間」なるものは存在し得ないわけですが。つまるところの屁理屈スキーなトーキングアバウトぶらっく怪盗(^▽^;)←またか…。 |
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||