× 闇色紳士的20題-20 ×

「バレマシタカ」

 

 

――おうさまのみみはろばのみみ。

 

 

いや、だって俺だってそりゃあ言いたいことなんていっぱいあるよ? 言いたくもないことなんて言ったら、もっとあるし。

でもアレだよね。「おうさまのみみはろばのみみ」って知ってるでしょ? 莫迦じゃねーかと思う訳よ。そりゃあ確かに、風の鳴るたびに自分の吐き出した言葉が井戸から聞こえるなんて、一歩間違えたらただのオカルトだし? 実際にそんな現象起こる訳ないってのよ。でもホラ。よく言うでしょ。「壁に耳あり、障子に目あり」って。俺にしてみりゃ、いつ何処で誰が聞いてるかも分からないのに、井戸なんかに叫んじゃう男も危機管理が足りないとか思うんだわ。少なくとも俺としては本当に誰の耳にも入れたくないなら、周囲の気配とか盗聴器とか、そういうのちゃんと確認してから叫べよって思うわけ。

ああ、カンケーないけど、名探偵も窓の外もチェックしておくべきだよね。うん。そうです。盗聴してますよ、押さえるべき処はしっかりバッチリ。何つっても俺、KIDだし?

そんなことはまあいいや。

大体、井戸なんかに叫んでスッキリするかよ。――そう、そこ。俺のツッコミポイント。愚痴だのなんか、やっぱり生きた人間相手じゃなきゃ全然ストレス解消しないでしょ、やっぱ。

守秘義務ってやつ? まあ、そんなのもどうでも良いよ。要は本人の耳にさえ入らなきゃ良いわけだし。

つーわけで、ちょっと付き合ってよ。あーまあ、嫌だって言っても付き合って貰うけど?

とにかく。

女の子ってのは大体、一度くらいは「男に産まれたかったわ」とか思うらしい。実際、歌でもそういうのあったしねぇ。…古い? 喧しい。

でも、反対に男も女に産まれてみたかったとか、思うこともあるらしい。女の子の言葉ほど切実じゃないみたいだけど、TVの街頭アンケートみたいなのでよれた感じのサラリーマンのおっさんとかが「女は家でゴロゴロしてりゃあ良いんだから」とか「男に貢がせたり奢って貰うのが当然で」とか、酒に頬染めて管撒いてるのを見たことがある。

俺の場合は…どうなんだろう?

ホラ、何つーの? 名探偵ってば外面良いし? 実際見た目は良いから…って、いや俺そんなに似てないし。ナルとか言わないでよ、凹むから。――いやだからモテそうじゃない。つか、実際モテてんでしょ。俺の回りにも新聞とか見てキャーキャー騒いでるのいたし。そりゃちょっとはムッとしたりしますヨー。ソイツは俺んだってのとかー? そんなこと思わず思っちゃう自分に後で大爆笑して、しかもその後ガッツリ落ち込んだりもするのよ、ホントに。

でも。

でもさぁ。

そんなのが俺の、どっからどう見ても男でしょっつー平たい胸だとか、骨がゴツゴツ当たる肩だとか、筋張ってる足だとか。まあ、同世代の野郎よりは確かに痩せてますよ。だって俺、一応年齢性別不明とされてるKIDやってますし? 若くてキレーなお姉さんとかにも変装出来なきゃだから、それなりにまあ華奢っぽく。でも、実際はすんげー力仕事なの。体力勝負なのよ、ドロボーさんって。これが確保不能の大怪盗ともなれば体力だけでなく、知力と時の運も必要なんだけどさ。だから細く見えても鍛えてますよ、普通より。必要以上に筋肉着けないようにしてるけど、そのせいで余計に無駄な肉着いてないから固いのよ。流石に腹割れてないけど。男にしちゃ奇麗で整っていると言われる手の平だって、実際には指も長くて女の人よりも確かに筋張ってるし、大きい。

とにかくまあ、どこをどう触っても、お世辞にも柔らかくも気持ちよくもないだろうっつー俺をだよ? 名探偵がどうこうするってのおかしくないか? 思わねーだろ、普通。いや、まあそう言う性癖の人を特別差別しようとか思ってないけどさ、それでも普通は男に産まれたからにゃあ、女の人の柔らかい胸だとか、何か甘い感じの匂いだとか、そういうもんに萌えるべきだろうとか思うわけでしてね、ええ。だって生物学的にも雄は雌の、雌は雄のフェロモンに興奮するようになってるんだからさ。

女になりたいと思ったことはないよ。想像つかないし、する気もない。

単純に、もし俺が女だったら名探偵のベッドでそんなことになっちゃてもおかしくはないとは思うけど。この腕がもっと華奢で、胸も尻も柔らかくて、甘い吐息とか吐いちゃえるんなら、そうなっても自然なんだろうとは思う。でも、現実に俺はそうじゃないから。

逆に男で良かったな、って思ったのはアレだ。確かに俺はあの瞬間、自分が頑丈で大きくて良かった。男で良かったって思った。子供の小さな身体くらいは、当たり前に守れて。銃弾からも、爆発からも、あの小さな身体を隠してしまえるだけの、かわりに引き受けても走れるだけの男の身体で良かったと。それは何度も思った。だからホントに女になりたいとは思わないんだって。

えーと、何だろう。あのね、俺…毛利さん好きなのよ。あの人すごく奇麗だし優しくて強いでしょ。ああいう人好きだなぁ、俺。まあ、それだけじゃないんだけど。俺の一番大事な女の子に見た目が似ててね。いや、中身はもう全然違うんだけど。だってアイツってば丸っきりガキだし。莫迦だしトロいし。そんなところが好きだし放っておけないんだけど。泣いて欲しくないよ。俺、アイツにもしもの時が来たら、絶対無条件で守るし、庇うし。恋とは少し違うなぁ。もう、俺の一部って感じ。幼なじみってそんなもんでしょ。だから…ねぇ。やっぱりアイツに似てる彼女にも、泣いて欲しくないなぁとか思うわけよ。俺を憎んでも恨んでも構わない。つーか、むしろそうして欲しい。悲しむくらいなら、泣かれるくらいなら、殴るなり蹴るなりされたほうがマシ。あの顔の人に泣かれるのはキツい。ん? 俺の幼なじみ? ああ、アイツのことは今でも大事だけど、コイビトにはなってやれない。だから俺はこれから先、何があっても何年経っても、絶対的にアイツの味方でいようと思ってる。自己満足なんだけどね、ホントに。

ねぇ、ちょーーっとグラグラしてきたんだけど。気のせい? そうかなぁ? いや、まあいいけど。

名探偵のこと。

好きとかじゃないよ。恋とか愛とか、そういうのじゃないね。少なくとも、あっちが思っているのとは違う。

ただ、俺は怪盗だから。「欲しい」と思ったから…ね。え? 違うって。そういうのはただの執着だよ。恋だの愛だのなんていう、ふわふわしたもんでも甘いもんでも無くて、ただの衝動。だからって、俺の気持ちのほうが名探偵の言う「好き」より軽いなんて思って欲しくないけど。

だってそうじゃなきゃ受け入れるわけないでしょ。確保不能の名は伊達じゃないんだから、本気で逃げようと思えば幾らでも逃げるし、消えるよ。でもホラ、やっぱり一応俺も男だし? そう簡単に組み敷かれてあんあん言っちゃう訳にもいかないでしょ。下らない矜持? うーん、返す言葉はないねぇ。だけどさ、名探偵も悪いよ。散々人の身体好き勝手に扱った挙げ句に「俺のこと本当は嫌いなのか?」とか、訊いてくるあの無神経さってどうなのよ。そんなの見りゃ分かんだろ。嫌いだったらそもそも近寄らないし、落ち込んでる時に抱き締めたり頭撫でたりするわけねーっての。同情だとか思ってるんだったら、アイツの頭のなかの俺ってよっぽど莫迦だろ。その原理で言えば、俺は誰にでもそういうこと許してるってことになるだろーが。……いや、真剣にそう詰られたときは、流石に殺意が芽生えたね。あの人、情緒面でどっか欠落してるって。それか、ソッチ方面の機微、全部事件に回してるか。ああ、そっちのほうが有り得るね。ホント、莫っ迦じゃねーの。

何でもいいけど、名探偵ってキスが下手だよね。いっつも緊張してる。タイミングを計りかねてるっていうか。「いつならしてもいいんだろう」「今してもいいものか」って、そういう感じ。キスする瞬間、偶に薄目開けて見てるんだけど、もうすげー真剣な顔してて、思わず吹き出しそうになったのは一度や二度じゃない。それなのにセックスばっか手慣れてて、オカシイってやっぱ。

うん? 惚気? やだなぁ、訊いてきたのはドクターじゃない。

……あー、何かやっぱ怠い。グラグラしてきた。ちょっと寝ていい? うん、一時間くらいしたら起こしてね。名探偵帰って来るだろうし。――ありがと。んじゃ、ちょっとおやすみ。

 

 

さあ、これで納得したのかしら、探偵さん? 何でそんなところで固まっているの、大丈夫よ、酩酊してるから当分気が付きはしないわ。はいはい、良かったわね、嫌われて無くて。

ええ、一時間もすれば抜けるわよ。大丈夫か? って、貴方…私の腕を疑うの? そりゃあ確かに、彼は薬物に耐性付けてるから成分や分量の調整はちょっと手こずったけど、私がそんなミスするわけないでしょ。大体、貴方が彼の本音が聞きたいって言ったんでしょ。私はちゃんと役目は果たしたわよ。……莫迦みたい。言っておくけど、貴方のことも含めてふたりに言ってるのよ。莫迦莫迦しいったらないわね、本当に。照れるのも拗ねるのも貴方の勝手だけど、早いところその情けない顔をどうにかしなさいな。後遺症もないはずだけど、とりあえず、念のために今日のところは自重して欲しいわね。――分かってるくせに聞くんじゃないわよ、セックスのことに決まってるでしょ。何、今更照れているのよ。……本当に今更過ぎるわ。

いいから貴方は適当に時間潰してから帰ってきなさい。それまでにそのにやけ顔をどうにかしてきなさいね。流石にバレたら捨てられても知らないわよ。あと、こんなことは二度としないから、そのつもりでいなさい。いいこと? 絶対にバレるようなヘマはしないで頂戴ね。私だって彼に嫌われるのは不本意なんだから。

 

 

 

「そろそろ起きたら?」

隣家の探偵を玄関から押し出した哀は、リビングに戻るとソファの上に伸びている人物に徐に声を投げた。

「…バレマシタカ」

その声に、今まで前後不覚という様相でだらしなくソファに転がっていた怪盗が、むくりと起きあがる。少し緩慢な動きで、しかし殊の外しっかりとした口調で。

「ちょっと効きましたね」

そのまま、軽い眠気を払うようにふるりと軽く頭を振って、目の前で呆れたように腰に手を当てて佇む少女にニヤリと笑う。

「……まさか全部飲むとは思わなかったわ」

呆れ半分、困惑半分、と言った複雑な表情で、少女は空のマグカップを手に取る。勿論、安全性には考慮したものの、実際薬物耐性のない常人が接種していれば、下手をすれば廃人一歩手前という効力があったのだ。仕込んだ自分が責めるのも烏滸がましいと思いながらも、その瞳は自然と咎めるような色を浮かべる。

「ドクターの腕前と、人柄を信頼してましたのでね」

怪盗はにっこりと微笑んで、戯けたように軽く肩を竦めて見せた。

「喋りすぎて少し喉が渇いたんですが、おかわりは頂けませんか?」

――今度は自白剤は抜きで、砂糖とミルクはたっぷりでお願いします。

にこにこと微笑んだまま、陽気に怪盗が強請る。常よりもややテンションが高めなのは、自分で言っていた通り、やはり少々薬物の影響があるのだろう。哀は溜息を吐いてカップを手に、キッチンへと向かった。

「で、何処までが本心だったのかしら」

部屋を出る寸前。振り返りもせずに小さく問えば。

「さぁ、どうでしょう?」

朗らかな声と、くすくすという楽しげな笑いが返された。

 

 

 

 

QUIT.
2005.5.17. GUREKO


「男心も複雑なんですよ、ねえドクター?」みたいな(苦笑)脈絡のない酩酊感と支離滅裂なトリップ感が出てれば吉かと存じます(--;)狙って書いたとはいえ、読み辛い文体ですみません…。つか、久々の攻略がこんなんで(以下略)

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