× 闇色紳士的20題-18 ×

「ネエ?イッテゴラン?」
※夏場のブーツ内で発生した水虫並みに、痒くて臭いコKです…orz 怪盗はプチ黒(でもあんま黒くない)

 

居たたまれない雰囲気に何気なく視線を上げた先。昼間のうちは薄暗いと思う曇天が、夜には普段よりも明るくなることを知る。月夜ばかりを跳び続ける昨今、見慣れない夜空の色にポーカーフェイスの裏側で、何だかますます落ち着かなくなった。

ぼんやりと薄明るいグレイの空は、天蓋を覆った雲がスクリーンの役割を果たし、地上の灯りを反射するからだ。都会でしか、有り得ない現象。

背後にいる探偵なら、きっとそんなことをズラズラと並び立てて、何も不思議なことなんてないのだと。また例の情緒ナシの蘊蓄を返すのだろう、きっと。

 

「そんなに見てても、雨はやまねーよ」

今夜の降水確率は、80パーセント。上がるのは明け方だとよ。

至極、つまらぬそうに。ぶっきらぼうに吐き出された言葉に、ゆるりと振り返る。冷然と、毅然とを心掛けて、殊更舞台上のような慇懃な仕草で。

「オメーの『女神様』とやらとも、今日は会えねぇってことだ。往生際悪く見てねーで、いい加減諦めろ」

言葉を返さぬまま、無表情に見返す自分をどう思ったのか。やや苛立たしげに小さな手の平がマントの端を捉えてぐいと引く。まるで、自分に興味を引き寄せようと母親の手を引く子供のような、それ。例えとしてはあながち間違っているわけでもないだろうが、中身を思うとちょっと複雑な気もする。

「そんな濡れた翼で、飛べもしない空いつまでも見てるんじゃねぇ。鬱陶しい」

――かぐや姫なんてガラでもねーだろーが。

どこからどう見ても、幼くも秀麗な容姿に反した嫌みたらしい表情と尊大な声音。しかも、鼻先でフンと笑うオプション付きだ。相手が女子供に滅法甘いと評判の「ハートフルな怪盗紳士」でなければ、思わず頬を捻り上げてしまいたくなる程度に、喧嘩を売るにはもってこいの言動だった。

しかし探偵にとっては幸いにも。そして怪盗の正体である黒羽快斗的には残念ながらも。現在の彼は、その「ハートフルな怪盗紳士」だったので、怪盗はそっと溜息を吐きだして、大人しく濡れて重たくなったマントの留め金を外し湿った上着を脱ぐと、小さな探偵に促されるまま(と、言うよりもいっそ「追い立てられている」と言った雰囲気ではあったが)室内のソファに腰を下ろした。

 

ちらりと視線を流した先。体温も伝わりそうなほど不自然に近い怪盗のすぐ傍らで、相変わらず小さな探偵は口をへの字に曲げて小難しそうな、怪盗の好まぬ本格推理小説の新刊を読んでいる。

怪盗とこうしてふたりきりになった時に、探偵の機嫌が悪そうなのはいつものことだ。

そう。いつものこと。

ふたりきりで過ごすのが不本意ならば、誘わなければいいものを。

探偵である彼が、怪盗である自分と対峙し対決することを楽しんでいるのは確かだ。しかし、こんなふうに馴れ合いたいわけではないだろうに。

それなのに、何故かこの頃はこうして犯行後に雨の降る夜は、必ずと言っていいほど彼のテリトリに半ば強引に引き入れられる。

小さな探偵の言い草を借りるのならば、「空を飛べないオメーの……そんな濡れ鼠のみっともない姿、ライバルとしては情けなくて見てられねーんだよ、このバ怪盗」ということらしい。

「この程度の雨でしたら、飛ぼうと思えば、飛べなくもないんですけどね……」

存外、淹れるのが上手い探偵から無言で突きつけられたカフェオレを、ちびちびと口に運びつつ。今更ながらも先に言われた探偵の言葉に小声で反論したのは、ちょっとばかり以前「飛べないオメーはただの泥棒」などと言われたことを案外根に持っているからかもしれない。

なお、そのセリフを言われた瞬間、怪盗の頭のなかで「飛べない豚は、ただの豚だ」という、某声優氏の渋い声が思い起こされたことは言うまでもない。あくまでも余談だが。

そもそも。組織の連中の気配がする時には、自らの身を囮とするためにわざと空を飛ぶこともあるが、実際には怪盗が空を逃走経路に選ぶ確率はさほど高くない。普段の犯行で最も多いのは、ダミーを飛ばして警官に変装……というパターンだ。

あとは…。そう、この小さな探偵が、自分の舞台裏にやってくることがわかっている時。彼との勝負で邪魔が入るのは、互いにその能力を認め合う怪盗にとっても探偵にとっても、望ましくない。なので、彼が予告状に記した暗号を解いて舞台裏へとやって来る時は、確かに空を飛ぶことが多い。

だからといって、空を飛べない=ただのコソ泥呼ばわりなどをされる謂われなど、本来なら無いはずなのだ。何しろ、こちとら『確保不能』の異名を持つ天下の大怪盗なのだから。

(飛べないなら、飛べないなりに逃走方法を変えるだけだし)

臨機応変なアドリブは、幸い回転の速いIQ400の頭脳を有するマジシャンにとって、かなり得意とするところだ。

「……何か言ったか」

「いえ、何も」

聞こえぬように口の中で転がした独白が、読書の邪魔になったのか。ジロリと睨まれる。

怪盗が軽く肩を竦めて空惚けるのはいつものことだった。

疑念の篭もった眼差しでじっと観察する鋭い視線から逃れるように、何気なく泳がせた目に入ったのは、先ほど探偵の手でキッチリ閉められた重厚なカーテン。

まだ続く微かな雨音に、その向こうにあるだろう、先に見た夜なのにやけに明るい曇天を思い出した。

まだ、今夜の獲物の確認をしていない。明日の天気予報はどうだっただろう。明日の夜は、月は出るだろうか?

「雨なら、朝までやまないって言ってんだろ」

――今のオメーは、濡れて飛べないただのコソ泥なんだよ。

舌打ちと共に投げつけられた、苛立たしげな声。ぐいと強引に肩を引く、小さな腕。余りにも細く軽い子供の身体に、とっさに抗うことを躊躇った結果、ごろりと仰向けに転がされた。

そのあまりにも侮蔑に満ちた苦々しい言い様にカチンときて、今度こそハッキリ告げようとした。

 

――この程度の雨なら、飛べますよ。と。

――それに、例え空を飛べなかったとしても、他にも幾らでも逃げる方法はあるのだ。と。

 

実際には、その言葉は声音とは裏腹の泣きそうな表情で見下ろす子供の姿に、思わず飲み込んでしまった。

あまりにも、ビックリして。

 

「……何て顔をしているんです、名探偵」

 

代わりに口をついて出たのは、我ながら仰天の驚くほど柔らかく甘い声で。

 

全く。この小さな暴君ときたら、何て素直じゃないんだろう。

全く。何て小憎らしくも可愛らしいんだろう。

 

「雨は、朝までやまねぇ」

――だから、オメーはここから帰れないんだ。だって、今のオメーは空を飛べねーんだから。

「そうですね……この雨では、飛べません。帰れませんね」

「そうだ」

 

乱暴に組み敷いて腰の上に跨る探偵の無礼も、逃がさないようにとぎゅっと掴まれたシャツに皺がよるのも。強気のなかに必死さが浮かぶ瞳を見てしまえば、もう全く気に障らなかった。

 

「でも……」

 

 

「実は、雨など降らなくとも私がここから帰れなくなる『魔法の言葉』があるのですがね? 探偵くん?」

 

途端、弾かれたように凝視してくる青の双眸に、怪盗は自分でも驚くほどの優しい微笑みを浮かべた。

 

「あなたは、ただ私に一言『好きだ』と、そう仰れば宜しい」

――ねぇ? 簡単でしょう?

 

「あなたにしか使えない、特別の呪文です」

 

そっと首を伸ばして、啄むように小さく整った鼻先に口付ける。

 

「試してみますか?」

 

真っ赤な顔をした小さな見習い魔法使いが、先ほど怪盗がしたのと同じような口付けと共にその呪文を唱えたのは数秒後のことだった。

 

 

 

QUIT.
GUREKO_2006.4.23.


気の違ったようなコKを書いてやろうと、唐突に思い立ちました(*ノノ)<来週待ち受けているだろう激務を思い、何か無性に気鬱になりかけたので発作的に
自爆技でした……しかも、爆発寸前に相手に逃げられたっぽ……_| ̄|●|||

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