× 闇色紳士的20題-16 ×

「愛してる?愛してない?」

 

「愛してる」

「愛してない」

 

冷涼でいて何処か甘い柔らかなテノールが、歌うように呟くたびに、その細く長い指先に摘まれた花弁が、ひらりひらりと床へと落ちて積もる。

 

「愛してる」

「愛してない」

 

滅多にない平和で暇な休日の午後。

無駄に広い、かつては近所の子供たちに「お化け屋敷」と恐れられていた屋敷の書斎。柔らかな日射しの降り注ぐ窓際で、出窓の縁に腰掛けている恋人を、工藤新一は日の光の届かない暗がりのデスクから、ちらりと眺めた。

 

「……何やってんだ?」

来い来い、と。右手の人差し指で猫でも呼ぶように招いてみたが、相手はそれに一瞬だけ視線を寄越しただけで、再び「乙女チック」な戯れに意識を戻してしまった。

 

……最も古来から、メジャーであるところの恋占い。

それくらいは、流石に新一だって知っている。

しかし、あれは本来、片恋の行く末を占うためのものであって。

自分たちのように、つい先日、晴れて「恋人同士」となったふたりには不要なはずだ。

 

「愛してる」

「愛してない」

 

はらり、はらりと降る花弁を摘む指先は、細く。春先の柔らかな日射しの元、肌理の細かい肌が眩しいくらいに白い。

逆光気味で俯き加減の首筋に、産毛が柔らかく淡い金色に透けて見え。伏せた睫毛が目元に紫掛かった影をつくる。口元に刻まれた微かな笑みが、宗教画のなかの天使のような清らかさと、どこか現実味の薄い儚さを醸しだしていた。

 

「愛してる」

「愛してない」

 

「……?」

そうこうしているうちにも、細く長い指先はまた、オレンジ色の細い花弁を床に散らす。

 

ふたり揃って出掛けた先からの帰宅後から1時間。

ついつい、今までの習慣で買ってきたばかりの推理小説に没頭して、構ってやらなかったせいか…と。

漸く、その恋人の行為が、遠回しな素っ気ない恋人への抗議だったのだと、新一は思い至った。

甘くも苦い笑みを微かに口元に浮かべて、読みかけの本に栞を挟み、テーブルに置いてから立ち上がる。本などは、いつだって読めるのだ。

 

「愛してる」

「愛してない」

 

「…快斗」

 

「愛してる」 

 

日射しのなかで子供のように熱心に、乙女のように可憐に他愛もない遊戯に興じる恋人の傍へ、歩み寄る。

 

「――愛して…ない」

 

はらり、と。白い指先から最後の花弁が落ちた。

 

「…愛してる」

 

空っぽになって茎の部分だけになってしまったガーベラを持ち、困ったように、途方に暮れたように。哀しげに首を傾けた快斗を、新一はそっと抱き締めた。

 

「へ……? 何?」

きょとんとした稚い表情で見上げてくる恋人に、新一は無意識に他の者には決して見せないような極上の笑みを浮かべる。

 

「だから、俺はお前をちゃんと愛してるって…」

床に落ちた花弁を一枚拾い上げ、その手のなかに落としてやりながら、幼い子供に言い聞かせるように甘く囁く。

 

「……えーと…」

 

新一に緩く抱き締められたまま、快斗は困ったような表情を浮かべた。

 

「そーなんだ…」

「おう」

 

「悪い…俺の占いの結果では、たった今『俺は新一のこと愛してない』って出ちゃったから、新一は片思いだな」

「……は?」

 

「いや、だから俺…どうもお前のこと好きだけど、『愛してる』わけじゃなかったらしい……悪ぃ」

「……はぁっ!?」

 

 

「取り敢えず…セフレと親友、どっちがイイ?」

 

――晴れて恋人同士になったのだと思っていたのは、どうやら新一だけだったらしい……。

至極あっけらかんとした表情で、何でもないことのように。ナチュラルにとんでもないことを尋ねてくる『想い人』に、新一は心のなかで血の涙を流した…。

 

 

 

QUIT.
2005.3.11. GUREKO


相変わらず無謀です。勢いだけで生きてます。そして「黒快」としても「新快」としても、アリなのかコレ…? みたいな微妙さ(T▽T)
この黒羽さんは演技派系黒で…。え? どのへんが演技かって……? そりゃあ、全部でしょう!(キッパリ)
……イメージソングは、筋少の「ペテン」で宜しくお願いシマス(逝け)

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