× 闇色紳士的20題-15 ×

「Smile Of Liar」

 

 

仕掛けられたのは「T.N.T.」

仕掛けたのは怪盗。仕掛けられたのは探偵。

 

覆水盆に返らず。

詰めてしまった距離も、覚えてしまった熱も。

見つけてしまったこの感情に付けるべき名前も。

気付いてしまったら、もう、無かったことには出来ない。

 

 

「偶にはね、そう言う時間も必要だと思うのですよ」

月下の奇術師は、そんなことを嘯いて綺麗に微笑った。

まん丸の月の下。シルクハットと月の陰影に、口元以外を綺麗に秘匿されたままで。

すらりとしたシルエットが、美麗に青白い月光の下で浮かび上がる。冷たい風の中で、涼しげに凛と立つ、その立ち姿。

 

「演じることを、苦痛だと思ったことは余りありませんが…それでも、偶に疲れることはありますからね」

 

飄々とした声音が、楽しげに。歌うように告げる。

 

「あなたも同様でしょう?」

 

綺麗に上がる、口角。計算し尽くされた、視覚効果。エンターティナーとしての、完璧なポーカーフェイス。自分を如何に見せるか、心得た仕草。

 

仕掛けた爆弾。

甘美なまでに、甘い声音。

ファウストだって一発で転げ落ちそうな、声。

緩慢に死に至る毒のように誘う、甘い、清涼な、声。

 

それに、忌々しげに舌打ちをする。

殊更、見せつけるように。彼に、自分に。

 

いつまで誤魔化しておけるだろう?

『彼』ではなく、己自身を。

「これは恋ではない」なんて。

 

 

 

目は口ほどにものを言う…とは、言うけれど。

目の前に対峙する相手と言えば、口よりもその瞳の語ることのほうが遙かに雄弁で饒舌で。

纏う気配と言えば、更に明確で正直で。

『快斗、困っちゃ〜うv』

なんて。内心で戯け道化ながらも、実際困るのだ。

こんなにあからさまに『欲』の篭もった眼差しで見つめられては、どうにも居たたまれない…と言うか、どういう対応をして良いのか、本当に困る。

 

「…何だよ、コソ泥。妙な顔しやがって」

 

それでいて、苦虫を噛み潰したような、幼くも秀麗なちみっこ探偵の口から零れるのは、そんな虚勢を張った小生意気な言葉だから。

――何か、可愛いかも。

などと、ついウッカリ思ってしまうじゃないか。

困っちゃうなぁ、もう。

こっちもそれどころじゃない事情とか、更に奥に隠した裏事情とか、諸々の障りがあるというのに、何だか絆されてしまいそうになるではないか。

本当に、困る。

何よりも、自分がそれの危険性をバッチリと認識していながらも、既にその存在を認めてしまっていることが、何よりも問題だ。

 

「――自覚が無いと言うのなら、それでもまあ良いんですけど」

 

ポツリと呟いて、少し首を傾けて苦笑した。

この小さな探偵が、恐らくは気に入っているであろう仕草で。

 

「……なに言ってんだ。バ怪盗」

 

途端に、益々深まる眉間の皺。低く恫喝染みてくる、声。

そして、燃え立つ瞳の熱。

 

「人という生き物は、大概矛盾しているものですからね」

 

怪盗は歌うようにそう嘯くと、軽く肩を竦めて(これも確か探偵が好む仕草のひとつだ)くつくつと喉の奥で笑った。

小さな舌打ちと顰められた顔に、おや? と思う。

噛み合っていないようで、滞らずに進行していく会話――いや、大した意味を持たない『戯れ言』の応酬。

これは意外と、探偵くんも自覚症状アリだったりするのだろうか?

 

「探偵くん。君の目はいつも、口以上に雄弁で饒舌ですね」

 

何となく、高揚した気持ちのままで『探偵』と『怪盗』の間に必要な距離を、不可視の壁を、破壊するための起爆装置に手を掛ける。

スイッチを押す、ギリギリの、僅かな手前で。

 

彼が、上から手を重ねるだけで、怪盗の手はカンタンにスイッチを押すだろう。

逆に。彼が、何もしなければ。

このまま何も気付かぬ振りで静観するのならば、怪盗の手がスイッチを押すことは絶対にない。

 

――さあ、どうする? 探偵くん。

 

正直、どちらでも良かった。

探偵がどちらを選んでも、怪盗にはそれを寛容に許容するだけの余裕がある。

罠を仕掛けて獲物が掛かるのをワクワクと待つ子供のような、無邪気で冷酷な高揚。そんな感情を秘匿して、意味深に微笑む。

 

「…オメーは、目も口も嘘吐きだ」

 

「まぁ、嘘吐きは泥棒の始まりなどと申しますしね…。それならば怪盗が嘘吐きなのは、道理でしょう?」

 

「笑顔も、声も、仕草も……全部、嘘のくせに」

――綺麗すぎるから、困る。

 

見えない起爆スイッチに掛けた怪盗の指。この上なく悔しげな表情をした探偵が、躊躇無く見えない指先で押した。

 

 

「取り敢えず、ちゅーでもしてみますか?」

くすくすと、楽しげに笑う怪盗を。

 

「ふざけんなバ怪盗」

怒りを装って失敗した、紅潮した頬の探偵が罵った。

 

「では、ひとまずは定番通りに、お茶にでもお誘いしましょう」

間近に歩み寄り腰を折って。片手にマントの端を巻き付けて恭しい仕草で一礼し。怪盗は、居心地の悪そうな小さな生き物の顔を覗き込んで、パチンとウインクをした。

 

「不発弾が埋まっていますからね、足下には気を付けて」

――取り敢えず、これ以降『バ怪盗』などという失敬なことを仰ったら、容赦なく抉りますから♪

にっこりと。最上級なとっておきの微笑みで秀麗な子供にきっちりと釘を差し(人も動物も、躾と仕込みは早いほうが良い)。怪盗は上機嫌に、罵声を発しながらジタバタと暴れる小さな生き物を、両手で軽々としっかり抱き抱え、偽物の星・ネオンの輝く夜空へ飛び出した。

 

 

仕掛けられたのは「T.N.T.」。ぶよぶよの灰色をした樹脂の固まりなんかでは無い、怪盗の放り投げたそれはtrick nothing time.(何も騙さない、時間 〉

小さくても威力は抜群。甘い嘘でコーティングしたそれを、口笛吹く気安さで仕掛けたのは怪盗。仕掛けられたのは探偵。

 

 

嘘吐きなキミと、嘘吐きなボクの間。

 

ずっと隔てていた不可視の壁は、見えない爆弾で木っ端微塵にバラバラの粉々。

 

 

 

 

 

 

QUIT.
2005.3.14. GUREKO


第3戦目にして早くも黒くなくなりました(爆)何か変に痒いベクトルで、夢見がちに甘く…(何故っ!?)恋する探偵が夢見がちなんですね、きっと…(いや、怪盗に夢見過ぎなのは管理人か)

一応、黒同盟の布教用「凡例七・Play on words」の前話設定で妄想していたんですが。この時点で、既にふたりの上下関係は決定! という感じで(笑)

……ワタシの書くメイタンテイ(漢字変換はお好みでドウゾ)ポエマーなんじゃないかとか、今更ながらに思ってみたりみなかったり(汗)

乙女な攻めは如何?(黒受けで乙女攻めか…嗚呼っ)

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