× 闇色紳士的20題-9 ×

「突き放してみなさい」
※工藤探偵殆ど出番無しです(爆)でも結局はアレな感じの新K。

 

ほら。よく雑誌やらTVやらでよく聞くじゃん? 『結婚するまで、こんな奴だなんて思わなかった!』とか、『付き合ってみたら彼ってば実は……』なんて。

まぁ、俺としては。そもそも『怪盗と探偵で』とか、『つか、それ以前に男同士で』とか、『しかも中身はともかく、外見はどう見てもチミッコじゃん!』とか。

まぁ、そんな様々な「うっそぉーーん!?」な状況があったにも関わらず、気付けば何だかんだと口説き落とされていて『お付き合い』なんてモンをしちゃっていたわけだけど……。

 

小さな探偵が、どうにかこうにか小さくなくなって。

俺も、怪盗紳士を廃業なんかしてたりして。

 

そんな風になったら…って、考えたりもした。んでもって、ちょっと(いや、結構)これからの未来ってヤツに期待とか、希望とか持っちゃったりした。パンドラは見つかんないし、組織の奴らの情報も思うように集まらないしで、それなりに焦燥感とか持ってた当時の俺にとって、何だかんだ言いながらもやっぱり小さな探偵は救いで、癒しで。

だから、お互いに全部終わった後のこと…なんて、酷く楽観的な未来展望なんかも、偶に考えてみたりして。

チミッコじゃない名探偵と、怪盗じゃない俺とが『お付き合い』している未来……だとか。

それで『よっしゃ、もう一踏ん張り!』みたいな。

 

そりゃまぁ、俺がどーだろーが探偵が元の身体に戻れば、今までお預けだった(味見はしっかりとされたが…_| ̄|●|||)『アレ』やら『コレ』やらもバッチリあるんだろーなーとか。

深夜の工藤邸でチミッコを膝に乗せて、ちょっとビジュアル的にも精神的にもアレな場所舐められたりされるのを(内心では大パニック★タイタニックだとしても)怪盗紳士の名に相応しい優雅に気品溢れる笑みで優しくたしなめつつ、こっそり思ったりもしましたよ。ええ、ホント。

――元に戻ったら、やっぱ俺が下なんだろーなー(溜息)。もしかして、●●●とか……いや、それどころか××××なんかもされちゃったりしてっ!?(濁汗)とか。

名探偵って、アレはどーゆー感じなんだろ……? やっぱオレ様っぽく鬼畜だったり、まだ好敵手として対峙してた時みたく悪どい面で言葉攻めされたりすんのかなー(泣)とか。

いや、でも何か料理とか全然駄目っぽいし、手先は不器用みたいだから、意外とものすげー下手なのかも……。――って、笑い事じゃねぇ! ヤラれんのは俺じゃんっ!(汗) 痛いの、ヤダなぁ……(泣笑)とか。

 

――だって、喰う気満々! って感じだったんだもんっ! 当時の名探偵ってば!!

俺が変なんじゃねぇっ! とにかくっ、オカシイのは名探偵のほうだって、絶対!!

高校生の独り暮らしのくせに、家にエロ本の一冊も無いなんてっ!!(無駄に立派な書斎に『山田風太郎』は網羅されていたが、あれは父親のものだろう、きっと)

 

「はぁ…」

「あ? どーした?」

「……いえ、何でも」

産気づいた妻を労るような気遣わしさで掛けられた声に、疲れた(しかし怪盗モード継続中なので、儚く見えるはずだ)笑みで応える。

小さな探偵は、どうにかこうにか小さくなくなっていて。

でも、俺は相変わらず現役怪盗をやっていたり。

しかし問題点はそこではないのだ。生憎。

「疲れてんじゃねーのか? 何なら上で少し休むか? 待ってろ、今客間のベッドメイクして…」

「いえ、別に体調が悪いわけではありませんので。ご心配には及びませんよ? ただ、ちょっと喉が渇いたなぁ…と」

安心させるようにそう告げて、はにかむように首を傾けにっこり微笑んでやれば、あからさまにホッとした風に気を緩めて。ついでに視線も頬も緩めて。

――しかも、ちょっぴり頬を赤らめたりしているわけだから……やはり探偵に『そーゆー意味』で愛されているのは、間違いない。

「そ、そっか! んじゃ、何か持ってくっから待ってろよ。……っと、紅茶で良いか?」

「ええ。すみません、お願いします」

チミッコであった時代の印象と、周囲の近しい人々から(一部隠密に)リサーチした人物像から、まず間違いなく『自分勝手で我が侭で強引な恋人』になると思われたのが、意外なほどに『恋人には尽くす』タイプだった。

そう言えば、聞こえは良い。

実際に現状での怪盗に対する扱いも、実に甲斐甲斐しくも誠実で。その至れり尽くせりっぷりは、一歩間違えば、姫君に尽くす従者のようですらある。

この上なく大事にされている、と思う。

 

――の、だが。

 

いそいそと。いっそ犬ならば、千切れそうに振られる尾が見えているであろう様子でキッチンへと向かう探偵の背中を見送りながら、怪盗は探偵に聞こえぬようにまたそっと息を吐く。

 

まさか…。

 

一度も手を出して来ないだなんて、思ってもみなかった!!(脱力)

 

* * *

 

「――名探偵って、もしかしてED……?」

まぁ、例の薬で縮んでたしなー…。元のサイズに戻ったとはいえ、副作用とかもあるのかもしれない……よな?(希望的観測)

 

「人聞きの悪いことを言わないで頂戴」

誰がその『解毒剤』を作ったと思っているの? 怪盗さん?

 

唐突に背後から聞こえた幼くも厳しい声に、一瞬ぎくりと身を強ばらせ。

振り返った視線の先には案の定、マッドな科学少女が、某人気シリーズ小説に登場する拝み屋の如き冷めた視線と渋面で立っていた。

「め、滅相もありませんですよっ! ドクター!!」

額から冷たい汗をダラダラ流しつつ、慌てて否定する。彼女にだけは逆らってはいけない、と。確保不能の現役怪盗の生存本能が、告げるどころか盛大に叫びまくっているので。

それを変わらぬ表情で眺めていた少女が、ふん、と小さく鼻を鳴らす。

 

「その様子だと、相変わらず生温い『恋人ごっこ』が続いているってわけね?」

「――はうっ…!」

淡々とした事実の指摘が実に痛い。クリティカルヒット。いや、むしろ痛恨の一撃。

匂わすことも遠回すことも飾ることも包み隠すことも無い、怪盗の口上とは真逆を行く少女の直裁過ぎる言葉は、実に小気味よく心地よいか、ぐさりと痛いかの潔さ。問答無用の二者択一。しかも選択肢は聞き手には無い。0か1か。白か黒か。正に二進法。実にバイナリ。

「理論上では、ちゃんと男性としての機能も元に戻っているはずよ? 私の解毒剤によるホルモンバランスの崩壊や、身体能力の著しい低下は見られなかったし」

流石に確認させろと言って、激しく探偵の拒絶(怯えた目で3日間家に籠城されたそうだ)に合った少女は、己の研究の成果を全て把握できなかったことについて、えらくご立腹のご様子であった。

「――えーと…・と、言うことは……。もしかして、私に魅力が無いとゆーことなんでしょーか……?」

そんな彼女を前に、とうの昔に怪盗モードを保ち続けることを放棄した怪盗である。悄然とした情けない声音で、絶対の信用を預けた占い師の託宣を待つ人のような面持ちで、自分よりも遙かに小さな少女を縋るように伺う。

「生憎、そんなマイノリティな性嗜好の持ち主の好みは、私には分かりかねるわ。それでなくても、工藤君の思考回路なんて常人に理解できるわけもないし。まぁ……単純に一般的な見地から見て、あなたの外見は整っていると言っても差し支えないでしょうけど? ……ああ、そうそう。他の対象で比較してみるというのも、ひとつの方法ではあるわね」

第一爆撃。

「……それはもう、試しました」

第二爆撃。

「そう……それで被験者と実験結果は?」

「昨夜の現場で遭遇した警官2名…安田春臣巡査(24歳・独身)と原口健司巡査部長(32歳・既婚)。いずれも性嗜好は外交上頗るノーマルですが、今までの経験上、前者に於いてはやや両刀の気配有りかと。既に対・名探偵で実験済み(結果は失敗)な『やや緩慢に襟元を緩め、婉然と微笑む』を実行したところ、両者共に心拍数の上昇と発汗、露出部の紅潮を確認。更に前者に至っては、明確に性的衝動を示唆する男性機能の顕著な変化を目視致しましたよ……」

怪盗は、論文でも読み上げるような抑揚のない声で淡々と語ると、ふっと自嘲するように遠い目をした。

「ちなみに、先月に服装を特徴の無いものへ改め、ほぼ素の状態で新宿2丁目付近に佇んでみたところ、約40分の間に24回声を掛けられ(丁重にお引き取り願った)18回開口一番に値段を訊かれ(重厚にお断りした)2回ほど拉致られそうになりました(拳でお断りした)」

「そう……その実験に立ち会っていたわけではないから、一概に判断できないけれど…。聞いている限りでは、少なくとも数割の同性も、あなたで『勃つ』ということが立証されているワケね」

「ええ…」

麗らかな秋の休日。阿笠邸のリビングでまったりと午後のお茶をしながら、MADな科学者とBADな怪盗は、隣家の探偵が聞いていたら、間違いなく咽び泣きそうな爆弾発言をさらりさらりと応酬した。

暫しの沈黙を破って、はぁ…と再び怪盗が疲れたように息を吐く。

「やっぱり名探偵って……」

「会話がループしているわよ。痴呆にはまだ早いんじゃない? 怪盗さん」

「それは恐らく、ドクターが先程出して下さったミルクティーに混入されていた、催淫剤とダウン系の幻覚剤のミックスコラボのせいかと思われます。――これ…もう少し苦み抑えないと、一口目ですぐバレますよ?」

若干くらくらする頭を振り、可愛らしげに小首を傾げた怪盗がそう言えば、

「あら、そう? でも気付いていたのにあなたは飲んだのね」

全く悪びれた様子のない少女もまた、少しばかり不思議そうに首を傾げる。

「せっかくドクターが用意して下さったものを、無為にするのは気が退けまして」

――大人しく飲まないと、どんな目に合わされるか分からないからだよーっ!(怯え)などという本心を、得意のポーカーフェイスですっぽりと覆い隠した怪盗が、優雅に優美に微笑む。ダウナー系の薬の作用か、常と同じを心掛けて浮かべたはずの笑みが若干儚げで愁いを帯びたものになっているが――相手がこの少女では、全く何の意味も効果も及ぼさない。

「はぁ……」

三度、溜息。気怠げで憂愁のそれは、重く深い。

ついでに身体もやや重い。

どうやら神経系の麻痺毒も含まれていたようだ。不覚。

指先の痺れを、かじかんだ手を暖めるように、コシコシと摺り合わせて逸らす。

「あの……どうせなら、名探偵でお試しになっては?」

「嫌よ」

そうして、可能な限り『何気なく』を装って放った提案は、しかしすげなく却下された。

「私、意外と一途なの」

この少女には珍しい、にっこりと嬉しげな微笑みに、怪盗は心のうちでガクリと肩を落とした。

そう。意外と言えば意外。彼女は被験者に対する拘りが並みではないのだ。そして、怪盗にとっては運の悪いことに、彼自身は彼女の目下『一番のお気に入り』である。――勿論、色っぽい意味ではなく、被験者として。

「今まで散々、勝手に試す相手を決められてきたんだもの。せっかく自由気ままに研究が出来る環境になったのなら、変な妥協はしたくないのよ」

とは、科学者の言。

思えば研究者には、ロマンティストや芸術家思考の者が多いのだが、まさか彼女もそうだったとは。

 

決して命に関わったり、後遺症の類の無いもの以外を試さぬ辺り……。そして、それ以外ではかなり破格の待遇を得ている辺り、確かに気に入られているのだと思う。怪盗としての仕事で傷を負ったのが知れれば、こちらのほうが居たたまれないくらいに心配して、不必要なくらいの手当をしてくれるし。――その際、血液だの何だのと、余計に思われるようなものまで調べられているのは、考えないことにしている。だって、怖いから。

 

「話を元に戻すけど」

4度目の魂まで抜けそうな溜息を吐いた怪盗に、少女が常のクールさでそう切り出した。

「いっそ、突き放してみるっていうのはどうかしら?」

「突き放す?」

「ええ」

鸚鵡返しに問い返した怪盗に、少女は生真面目な表情でコクリと頷く。

「ぶっちゃけ工藤君って、下手をすれば不純物ゼロの現役小学生にすら劣るくらいに、男女間における機微には疎かったわ。蘭さんへの態度も、酷く子供染みたものだったし。きっと恋愛経験なんて殆ど無いはず。――それに、彼は本来『探偵』よ。過去の彼のあの強引さは、間違いなく『追う者』としての本能的な捕獲行為。そうでもしなければ、あなたを手に入れることなんて出来っこない。その想いが、きっとああいう言動に走らせたのね……でも、あなたは今、こうして彼の元に居る」

「ぶっちゃけ返しますが、それは名探偵が私を手中にしたと確信したことで、私という存在への興味が薄れたということですか?」

まずい。まだ薬が残っていたようだ。ちょっと(いや、かなり)凹んだ。

結局は『謎』か! 『謎』が減ったら執着心も減ったってことか!? あの大莫迦推理之介がぁーーーーっっ!!(怒)

「不幸に酔っているところを申し訳ないけれど、そういう意味ではないわよ?」

怪盗の内なる怒りの雄叫びが聞こえたわけではないだろうが、それにはあっさりと否定が返される。

「そうね……。要するに、今は『ふたりで過ごすささやかな幸せ』を噛み締め『長い時と手間を掛けてようやく結ばれた、付き合い始めの初々しいふたり』を堪能していると言ったところかしら?」

「……何ですか、その大昔の少女マンガ並みに薄ら寒いピンク色は……」

「だから言ったでしょ? こと、自分の恋愛に於いての機微は小学生以下だって。――だから、突き放してみなさいよ。……そうね。いっそのこと『別れる』くらいの勢いで言ってみるのも面白…コホン、効果的かもしれないわね。きっと一気に『追う者』モードにシフトするんじゃないかしら? 散々追いかけ回されたあなたも充分に知っていると思うけれど……彼、逃げる者には容赦ないわよ? しかも一度手に入れたものだったりしたら、間違いなく理性が吹っ飛ぶんじゃない? 上手くいけば、その日のうちにAどころかZまで到達するかも……」

「あのぅ、ドクター……? つかぬ事をお訊きしますが……Zって何ですか…?(汗)」

「いい? 上手く性的接触に持ち込んだら、ちゃんと私にも報告するのよ? 私の作った解毒剤の完璧さを、きちんとデータにして記録しておくんだから」

すっかり研究家の目をして、キラキラと言うよりもいっそ、期待にギラギラした瞳で見上げられた怪盗は、引きつった笑みでコクコクと首肯した。

「………善処シマス」

確保不能と謳われた現役怪盗の生存本能が、断末魔のように「逆らうなっ!」と姦しくも切実に叫ぶので。

 

 

「じゃあ、分かっているとは思うけど」

「ええ…」

「突き放してみなさい! いいわねっ? 突き放すのよっ!?」

 

 

その夜。科学者に言われたままにミッションを敢行した怪盗が、めでたく隣家の探偵に喰われたのかは―――誰も知らない。

 

 

 

QUIT.
2005.10.25. GUREKO


闇色紳士淑女(爆)

「乗る度胸」怪盗(受)再び!(^▽^;)
おかしい……。期間終了間際な「哀キ博」のために、哀快アンソロで他の方のラヴ哀快を補充して、己を哀Kモードにするつもりだったのに……それでなきゃ密会の熱の冷めぬ間に、最近とんと書けない「オレ様★王様」なコKモードになろうと思っていたのに……何でこんなものを!?(汗)
何だか妙に冗長な、ダラダラと締まりのない駄文になってしまいました…_| ̄|●|||
一応、闇題19の「容赦のない手腕」の……前になるのかな? マッドな科学者さんも好きだー。
本当は某所用の、もっとリリカルなネタを書くつもりで書き始めたらウッカリ出だしで蹴躓いて、気付いたら全くの別ネタになってしまったんだとか(あう…)。肝心の書きたかった某所ネタはサッパリなんだとか…(泣)
でも、闇題攻略開始時点で漠然と「手強そう…(汗)」と思っていた「突き放してみなさい」が(駄目駄目とは言え)攻略できたので、ひとまずヨシとしておきましょうか……(^▽^;)

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