「君は私を知りえない」
深夜の対峙。探偵からの思い詰めたような、押し殺した告白に、思わずと言った様子で、怪盗は隙のないポーカーフェイスに一瞬の驚愕を浮かべた。 「――申し訳ありませんが、名探偵。私とあなたでは決して相容れることはないでしょう。よって、あなたのお気持ちにお応えすることは出来かねます」 僅かな揺らぎを瞬きひとつの合間に奇麗に収束させた怪盗は、一瞬後にはその唇に小さな笑みと、冷涼な双眸に慈悲の光すらも湛えてそう応えた。月下に相応しい、銀の鈴を振るような、どこまでも冷涼で澄んだ穏やかな声だった。 当然、予測していた応え。 だが。いや、だからこそ、引くつもりなどは全くなかった。 探偵として、怪盗を追い詰める時と変わらぬ緊張。向ける想いのベクトルが変化しても、それは変わらない。逆を言えば、それくらいの気持ちで追わなければ、この人物を捕らえることなどは不可能だと知っている。 「俺とお前が、探偵と怪盗だから……なんて理由じゃ、俺は納得しねーぜ?」 敢えて、不遜なまでの笑みを浮かべて一歩、近付く。 「俺とお前が、男同士だから……なんていうのも無しだ」 更に、一歩。 少なくとも、怪盗が自分に対して全く興味や好意を抱いていないとは思わない。それは、怪盗のショーの後に密やかに行われる、このふたりだけの対峙を彼もまた許容していることから、充分に推測できた。 勿論、その好意は探偵が怪盗に覚えている飢餓とは、全く別のものであるとも同時に理解していたが。 「……そのような理由で、私が拒んでいると思われるのは心外ですね」 怪盗は困ったような苦笑を浮かべた。 「同じ想いをお返しすることは適わぬまでも、仮にも私が認めた名探偵の真摯な想いに対して、努々そのような普遍的かつ逃げの典型のような理由で拒むことは出来ませんよ」 「だったら……何がお前の理由だ? 俺は別に、お前に今すぐ同じだけの感情を返せと言っているわけじゃねぇ。ただ、俺にもその機会を寄越せ、と言っているだけだ」 ――まぁ、俺としては絶対にお前を落とすつもりだけどな。 決意を込めてそう伝えれば、怪盗はくすくすと笑った。 「相変わらず、自信過剰の塊ですね。……ですが、私はあなたのそんな処も気に入っている」 楽しげに目を眇め、口元に片手を添えて小さく笑う怪盗は、普段の不遜も不敵もなりを潜めた柔らかい表情で、歌うようにそう言う。その瞳に浮かぶ色も、柔らかく緩んだ気配も、明らかにこちらに対する好意を示していて。 「だったら何が問題なんだよ……っ! 俺の今のこのナリかっ!?」 思わず、余裕も崩れて本音が飛び出した。 探偵が、一番、気になっていること。一番、気に病んでいること。 「それこそ、愚にも付かぬ些末事です。不当に今のご自身を貶め自嘲するようなことを仰いますな……。あなたの真実は、私如きだけでなくあなたの周囲の方々もご存じのはず」 苦痛を帯びた突然の探偵の声に、怪盗は間髪入れずに宥め咎めるような表情で否定をする。 「例え今のお姿が偽りのものであろうと、あなたの内から漏れる輝きに何の障りがありましょう? そのお姿で居てさえ、真実「探偵」であり続けるあなたが、何故今のご自身を卑下する必要がありましょう? その程度のことで変わる価値観を押し付けるような輩は、あなたのほうから捨てておしまいなさい。小さな名探偵」 ぴしゃりと言い切る毅然としたその声音と、凛とした気配は、怪盗が真剣に「江戸川コナン」と言う名の偽りの姿を些末事として捉えていることを伝えた。 「あなたという存在の価値は、その程度のことで揺らぐようなものではないでしょう?」 そう言いきる奇術師の強さに、真っ直ぐな優しさに、いつも探偵は心臓を鷲掴みにされるような感銘を受ける。闇の中を切り裂いて飛ぶ、あの凛然と清涼とした銀の軌跡そのままに。 「私が「あなたと相容れない」と申したのは……そんな理由からではないのです。本当に、そんな些末なことが原因では……」 一転して憂いを帯びた表情で。怪盗は消え入るように、己こそが消え入ってしまいたいというような風情で、小さく呻くように呟いた。 「だって、名探偵……目玉焼きに醤油かけるじゃありませんか……っ! 更にトマトにはマヨネーズおかけになるでしょう……っ!?」 しかも、マヨネーズはアレエキスも入っているセイ●イ派ですし……。 「……は?」 「私、目玉焼きには幼少時からソース派なんですっ。トマトには塩で、更にマヨネーズならキミコ●派なんです……っ! 例え相手が名探偵と言えど、絶対こればかりは譲れません…!!」 どう考えても、私たち相容れませんっ! 探偵と怪盗としてですとか、共闘者としてならともかく、「そういう関係」になるとしたら絶対に上手くやっていけませんっ!! 「え……?」 「それさえ無ければ、名探偵のお気持ちにお応えすることも吝かではありませんものを……っ」 ごめんなさいっ。でも、これも運命(と書いて「さだめ」と読む)と思って下さい。 染みひとつ無い白に覆われた両の手で顔を覆って、さめざめと嘆く(あくまでも見目麗しい)怪盗に、探偵は一体どうしたらいいものかと真っ白な頭でグルグルと思案した。 「些末事じゃないのか……それ?」 思わず呟いた言葉は、初夏の突風に攫われて儚くもアッサリとかき消えた。 IQ400で確保不能の規格外大怪盗の思考は、如何な日本警察の救世主の知力があっても、更にマラリア海溝よりも深い愛情を以てすら、どこまでも理解不能だった。 QUIT.
2006.5.14. GUREKO
相容れないもの>類似で「猫派」と「犬派」ですかネ?(笑)←私はどっちも好きだが。つか、基本的に虫以外の動物の大半は好きだが(アンタの好みは別に訊いてないから!)
いつもの如くアフォネタでスマセ…っ!!(つか、激短文にも程があるよ!)しかも何かありがちネタだな、ヲイ……orz
それ以前に、これ微妙に黒怪盗でもないような……(どっちかとゆーと、壊れ系?)探偵さんが不憫なことだけは変わりませんが(マテ)
惚れた相手が規格外だったということで諦めて貰うしか(捏造バンザイ)
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