黒羽快斗が同行すると知った時点で、それは容易に想像できたことだった。
「へぇ…俺、密室殺人現場って初めて見るわー。うわ、マジ? こんなトコまで血痕飛んでるよ…。うぎゃー、お前らよくいつもこんなんフツーの顔して見て回るよな〜〜」 「……嫌やったら外で待っとき」 「えー、やだよ〜。俺だけ退けモンにすんなっての!」 唇を不満げに尖らせ、眉間に皺を寄せて。更にはそっくりさんの東の探偵にお化け屋敷を回るカップルの彼女宜しく、ピッタリと身を寄せて。やや血の気の引いた顔で、それでもその口から零れるのは、昼夜問わずに相手を煙に巻き、対峙する者の気を挫く、相変わらずの『マシンガントーク』。 「窓側は人の立つ隙間もない断崖絶壁。上にも下にも部屋はなく、更にこの窓は填め殺しで実際に開くことは出来ない…」 対して、東の名探偵も相変わらずのマイペースで、怖々と背後にへばりつく相手の腕をさり気なく安心させるように引き寄せながら、至極真面目くさった表情で先程警部から聞いた情報を確認するように呟く。 「せや。そして、唯一の出入り口である其処の扉も、犯行時…ちゅーか、被害者の悲鳴を聞いて集まった友人達がぶち破るまで、内側から鍵が掛かっとった」 「ドアの前に設置されていた防犯カメラにも、不審な人物は写っていない…か。更に現場に残されていたのは、致死量の血痕。だが、肝心の被害者が室内から消えている」 「そして、被害者は此処から数百mは離れとる、車庫のなかで発見された…」 「しかし、車庫内には僅かな血痕があるだけで、鑑識の結果では殺害現場はこの部屋で間違いない…」 「そうや…。これは、完全な密室やな」 「えー。でも、俺は簡単に出入り出来るけどなぁ…?」 シリアスに決めたところに、脳天気な声が降る。 そりゃまあ、確保不能・神出鬼没で名を馳せる現役怪盗紳士なら、この程度の密室攻略くらいは朝飯前なのかもしれないが。 「……せやったら、お前が犯人っちゅーんかい。自首するんやったら早よせいや?」 「ンなワケねーだろ」 茶化す怪盗を黙らせるべく、ジトッと呆れた半眼で睨んだ西の探偵に、すかさず東の探偵殿の蹴りが炸裂した。己自身と「お気に入り」に関わることとなると、相変わらずの狭量ぶりだ。 「うー…」 「どした? 快斗」 更にトドメを刺すべく、足を振り上げたところで背後から聞こえた不明瞭な呻き声に、東の名探偵(ついでに「日本警察の救世主」とも呼ばれている)は、その凶悪な表情を一気に緩めて、気遣わしげに振り返る。正に、豹変。 「何か…血の臭いに酔った……」 「大丈夫か?」 青ざめた顔で口元を覆って俯く怪盗を、東の探偵が肩に手を回して支えてやりながら、心配げに顔を覗き込む。 「――バカップルや…」 嘆かわしい…。床に沈んだまま西の探偵がボソリと呟く。 「…何か言ったか? ああ…?」 途端に氷点下の笑顔と声音が呪縛した。 「ぐ…具合悪いんやったら、早よ外に連れてってやったほうがええんやないかっ!? ――って、そう言うたんや!!」 慌てて取り繕うが、それは半分は本心からだった。ついでにお前も出て行ってまえ! そんで、もう帰ってくんな!! とも半分くらいは本気で思っていたが、それを実際口にするほど、西の名探偵も死に急いでいるわけではない。 「そーだな。じゃあ、俺達はもう此処には用はないから行くぜ?」 「へ?」 あっさりと首肯する東の探偵に、西の探偵は間の抜けた声を上げた。東の探偵が現在、時代錯誤な怪盗紳士をこの上なくお気に召して。言わば『手中の珠』の如く猫可愛がりをしているのは知っているが、それでも彼は根本的なところで『どうしようもなく探偵』だったから。 まさか、事件の解決もしないままに現場から離れ――あまつさえ事件を放棄するとは、流石に思わなかったのだ。 ――工藤…! お前…とうとう、其処までその怪盗に骨抜かれてしもたんか!? 嗚呼、嘗ては共に熱く事件を追い、時にえげつないほどの執念深さで犯人を追い詰めていた俺のライバルは、折角元の姿を取り戻したと思うたら、最近は会うたびに人格崩壊していきよる…。いっそのこと『江戸川コナン』カムバック!(西の探偵・心の叫び)
心のなかで血の涙を流す西の探偵を後目に、東の名探偵がまるで「つわり」を迎えた妻に付き添う夫のように、甲斐甲斐しく怪盗のふらつく身体を支えながら扉へと向かう。 「ま、待てや、工藤っ! 事件はええんかい!?」 一応、警察からの要請を受けたのは「工藤新一」であり、西の探偵は偶々工藤邸に居合わせたから現場に来ているのに過ぎない。それが部外者を同行した挙げ句に、事件を放棄して帰宅しては、流石に拙いだろう。探偵としての沽券にも関わるし、信用問題だ。元々何の権限も資格もないはずの彼らが現場に入り、捜査に参加できるのは今までの実績と信用からのものなのだから。 「……はぁ?」 しかし。そんな友人思いの(自称)西の探偵に返されたのは、東の探偵の「お前、何言ってんの? バッカじゃねーの?」的な、多分に呆れを含んだ声だった。
「事件なら、もう解決するぜ? つーか、俺は別に事件放棄するなんて一言も言ってねーだろーが」 「だからさっき俺でも簡単に出入り出来るって言ったじゃん…元々密室じゃねーもん、此処…」 「お前、もしかしてまだ気付いてないのか?」 「暖炉の奥に隠し通路…ベタ過ぎだよねぇ……今時」 綾辻●人の館シリーズ並みだよ…。つーか、隠し部屋や隠し通路がある時点で、それ密室としてはアレだよねぇ…。 「屋敷の設計図と、実際の屋敷内の間取りを比較したら、明らかに部屋数がおかしいじゃねーか」 そしたら、どっかに隠し部屋・もしくは隠し通路があると考えるのが妥当だろ?
当たり前のように。腹話術師とその人形のように。軽快に立て板に水の如く、交互にふたりの口から零れるのは、明らかに陰惨な現場には相応しからぬあっけらかんとした声音と言葉の数々で。
――この…
あくまで内心でシャウトしたはずの罵声を、お得意の慧眼と読心術で読みとったかのように。
「俺がこの上なく美形であることと、コイツがとんでもなく凶悪に可愛い事は確かだが、俺は生憎、水面に映る自分の顔見てウットリするほど病んでない」 「え〜? 俺と新一、全然似てないって! 新一のほうがずっとカッコイイじゃんv」
再びバカップル共の連携技が炸裂し、西の探偵のMPに致命的な大ダメージを与えた。
「もう、コイツらと付き合うん嫌や…」 西の探偵は無人となった「元・密室」で、ベッタリと床に懐いてシクシクと嗚咽を漏らした。
QUIT. 2005.1.24. GUREKO
タイトルは見え見えに「三匹が斬る!」もじり(爆)3バカ・内訳は、推理バカ(兼怪盗バカ)と、推理バカ(不幸体質)と、紙一重(しかし天然要素バリバリな)バ怪盗って感じで(^▽^;) すんません…またしても書き始めの当初は某所用でしたので、SSとしては非常に短いです…_| ̄|●||| |
〈お戻りはブラウザバックで〉
SEO | [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送 | ||