「賽は投げられた」 ― Iacta alea est! ―
「Plaudite, acta est fabula.(拍手を。お芝居はお終いだ)」
人気のない廃ビルの一室に、明朗と響く亡国の調べ。一頻り、盛大な拍手をした後に、染みひとつ無い白の衣装を身に纏った奇術師が、冷涼な凛とした声を投げた。 「そして、初めまして。工藤探偵…?」 優雅に、緩慢に身を折って一礼する。 「これで、お互いハンデは無し…ってことだな。探偵くん?」 背後に月光の差し込む窓を背に。深く被ったシルクハットと、外部からの鈍い光を反射する片眼鏡が、月の陰影と共に彼の表情を、計算し尽くされた強かさで秘匿している。唯一、此方から視認できる口元には、酷薄で。いっそ無邪気とも言える子供染みた、不敵な笑みを刻み。 壮絶な、圧倒するような純度の高い気配が、闇を打ち払うように。光を掻き消すように、その場を支配した。
* * *
「…こんなものか?」 ゼエゼエと、息を吐く。真っ直ぐに立っていることが出来ずに、膝に手を当てて、忙しない、整わない呼吸を必死に繰り返す探偵を。真っ直ぐに、射抜くように醒めた視線が、舐め。 僅かに首を傾けて、独り言のように紡がれる、声は。何処までも、冷涼で。冷淡で。 「こんなものなのか…?」 興を削がれたように、詰まらなそうな口調で。いっそ、子供のようなあどけない、冷酷な無邪気さを孕んだテノールが、淡々と吐き出される。 「……っ、…」 言い返そうにも、呼吸が詰まりそうな胸に走った鋭い痛みに、それは声にならずに。ただ、煩いくらいの忙しない息遣いだけが、彼の作る静寂を損なうように、周囲に響く。 「おいおい…マジかよ」 呆れたように肩を竦めて。憮然としたように、溜息を吐いて。 月下の奇術師が、口元を歪める。 呼吸ひとつ、乱さずに。 「折角、手加減無しでやり合えると思ったのに…期待外れだったみたいだな」 暫く、肩で息をする探偵を興味深げに観察し。 「あんなガキのナリで彼処まで追い詰めてくれたんだから、元に戻ったらさぞかし愉しませてくれると思ってたのに……」 やがて。興味を失ったように、怪盗はくるりと無防備に背を向けた。 「全く、ガッカリだぜ…」 「……っ、待、て…っ!」 何の気負いも警戒もなく、ゆっくりと歩き去る怪盗に向けて。漸く、探偵の喉から零れた声は。酷く掠れていた。
「――Plaudite, acta est fabula.(――拍手を。お芝居はお終いだ)」
ガクガクと力の入らない、疲弊した足を、身体を叱咤しながら、なおも怪盗に追い縋ろうとする探偵の耳に。
例えようもなく麗しい、流麗な。冬の凍てつく夜空に君臨する、冷ややかな月光のような冷涼なテノールと。怪盗の、おざなりで空虚な拍手の音が、冷たく響き渡った。
QUIT. 2005.2.6. GUREKO
先日から書き続けている、2月用駄文の怪盗の余りの駄目駄目っぷりの反動で、思わずこんな「ぶらっく怪盗」が降臨(爆)……あははは…ゴメンナサイ〜〜〜〜っ!(^▽^;) せっかくの激短なんですが、流石にランダム表示の「某所」に、こんな黒いの仕込むのはどうよ!? と思って自粛… _| ̄|●||| あああ…ヤッチマッター…ヤッチマッタよ〜〜っ!!(汗) |
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