―X-ray・番外―
【魔王?】

※【勇者?】続編

  

身体にねっとりと纏わりつくような不快な暑気と、生温い湿った風のなか。

見目だけは涼しげな、煮崩れた檸檬色の月を背に。

『怪盗』は、己だけが唯一その世界に属していないかのような、実在を疑わせるような現実感を伴わない冷涼さで、凛と涼しやかに佇んでいた。冴え渡る冬の月のような、冷たい硬質なプラチナのような、誰も溶かすことの出来ない氷のような、そんな温度で。

形の良い、薄い唇から零れるのは、柔らかく耳に心地よい、甘さを含みながらも何処かに凛然とした淡泊さと、冷たさを感じさせる、澄んだテノール。

不敵に不遜な形に口角を上げた、その唇が紡ぐのは――。

 

「バッカじゃねーの?」

「……テメーにだけは言われたくねぇな、バ怪盗…」

「いや、悪ぃ…今のは正確じゃなかったな。――お前は『莫迦』だ。正真正銘、莫迦そのものだ」

「……蹴るぞ?」

「ボウズのその小さな短い『足』が、届くと良いな?」

 

ニヤニヤと。あからさまに人の悪い侮蔑と揶揄りを隠すことなく前面に押し出した怪盗。その優美な姿を裏切るように、凛と冷涼な声が紡ぐのは。実にあっけらかんとした、軽薄な、在り来たりの「子供染みた悪態」であり、ガックリ来るくらいにストレートな、嫌味と呆れの言葉だった。

 

「結局、コナン君は『大事な誰かさん・しかも据え膳状態』から、這々の体で逃げ帰ってきたってわけでしょ?」

――やっぱ『莫迦』だわ。紛うこと無い、正真正銘、真なる莫迦だね! 決定。これからはキミのことは『ヘボ勇者』と呼ぶことにしよう。

うんうん。と、顎に手を掛けた芝居掛かった仕草で、さも妙案を思い付いたかのように楽しげに頷く。ムカつくことに、そんな仕草さえも憎たらしいくらいに麗しく、優美で。

「呼ぶんじゃねぇ」

「んじゃ、在り来たりだけど『ヘタレ』。もしくはストレートに……『意気地無し』?」

「……っっ!」

――不覚にも、それはかなり致命的に探偵・工藤新一(故あって現在は小学生・江戸川コナン)の、決して柔ではないはずの心を、深く深く抉った。クリティカルヒット。

 

>怪盗KIDの口撃

>怪盗KIDは呪文を唱えた「意気地無し」

>コナンのMPに9999のダメージ

>コナンは力尽きた

>セーブしたところからコンティニューしますか? YES/NO

 

「ありゃりゃ…流石に『ストレート』過ぎたか……」

目の前で肩とガックリと落として、昼間の熱をまだ孕むアスファルトに両の膝と手を付いて俯いたコナンを、表面上、心持ち同情するように怪盗が覗き込む。

「…俺を苛めてそんなに楽しいのか? イカレサド野郎……」

そのまま地面に体育座りをして、顔を抱いた膝に伏せ、瞳だけを恨めしげに上げれば。

「うんにゃ? これは『ラヴ』の一環デスヨー? 探偵君♪」

天使のような清らかな慈悲深い笑みを口元に浮かべた怪盗が、ケケケ…と楽しげに笑った。怪盗の纏う、汚れ無き純白のスーツの隙間から、先の尖った黒い尻尾がチラリと見えたような気がした。

「ぜってぇ嘘だ…」

つーか、そんな『ラヴ』要らねぇ…。

今日ばかりは『追いかけっこ』もする気が湧かずに(昼から夕方に掛けて、既に充分すぎるほどに疲労していたせいもあって)、コナンはそのまま顔を再び、両手で抱いた己の膝に埋めた。

「冷たいこと言うわね〜〜、新ちゃんったら…」

母さん、哀しいわっ! そんな子に育てた覚えはないわっ!

怪盗は。追い打ちのように探偵の母親の声音で、わざとらしくその場で横座りまでして、よよよ…と泣き崩れる真似をしてみせる。

「――元々実の母親にもきっちりと育てられた覚えもねぇし、テメーのは似合いすぎるからヤメロ」

「ありゃ…もしかして、ホントに本気で凹んでいらっしゃる?」

キョトンと。小首を傾げて、今度は声音にやや心配を滲ませて、怪盗がこちらを伺う。上目遣いのコナンの視線に、不思議そうな、僅かに不安そうな色を浮かべる片眼がぶつかった。モノクルを填めた右目は、鈍いガラスの光に阻まれて見えない。

ひょこん、と。軽やかに立ち上がった怪盗が、軽やかなステップを踏むような足取りで、地面に蹲るコナンの傍まで歩み寄る。

 

「――で、本当のところ…どうなんですか?」

穏やかな、柔らかな。宥めるような、慰撫するような、甘いテノールが間近で聞こえた。息遣いすら、微かな衣擦れすら聞こえそうな距離で。

「……傷つけたく、ねぇよ」

大事に、大事に、優しく甘やかして。不用意に傷つけられることの無いよう、隠して仕舞っておきたい。

「ふーん?」

「でも、傷つけたくなる時もある」

優しさと愛情で、雁字搦めに縛り上げて。その上で、奪ってしまいたくなる。――壊すのなら、いっそこの手で…とも思う。

「なるほど?」

手の届きそうな距離にしゃがみ込んで、膝に頬杖を付いて、怪盗はコナンの台詞にふむふむ、と興味深そうに相槌を打つ。他の相手なら、むしろ「興味本位でんなこと訊くんじゃねぇ!!」と、怒鳴りつけるところだが――単なる興味や好奇心から…と言うには、怪盗の瞳は余りにも深く、柔らかく、優しかった。

――本当に、『天才』というのは、厄介で困った人種だ。気紛れに、近付く。気紛れに、甘やかす。

「どっちにしろ…『江戸川コナン』には、出来ないことだけどな?」

口元に浮かんだ笑みは、その見掛けに相応しからぬ自嘲の笑み。一瞬の油断が、現状に繋がる。そんな己の無様な姿を、嘲笑うように。嘲るように。抱え込んだ、小さな子供の膝。小さな手。小さな身体。無力な子供の。

 

「――そんなこと、ないよ…?」

慈しむような、柔らかな声が、降る。

「だって、俺…コナンのこと好きだし。――だから」

ぞくり、と。背中を『ナニカ』が走った。歓喜のような、狂気のような――誘惑。ごくりと、唾を嚥下し――コナンは唐突に我に返った。

「…待て」

「なーに? コナン」

上げた視線の先には、にこにこと楽しげな表情でコナンを眺める怪盗――ではなく、大切な『黒羽快斗』の姿。予想通りの(しかし当たって欲しくなかった)展開に、コナンは一度己を落ち着かせるように、深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。

一瞬後。

「テメー!! あれほど「快斗には会うんじゃねーっ!」って、言っただろーがっっ!!!」

眼前のTシャツの襟首を力任せに引っ張る。そのままガクガクと容赦なく揺さぶった。

「見ただけです! 遠くからちらっと見ただけっ!!」

ぐえ、とカエルの潰れたような声を発し。ポンッと軽やかな音と共に、コナンの眼前にピンク色の煙幕があがる。晴れた視界の先。怪盗は既に『黒羽快斗』の変装を解き、充分な距離を取っていた。

「テメ…」

「いや、だって気になるじゃないですか。探偵ボウズ君がそこまで執着する…しかも『私と同じ視点の持ち主』だなんて言われたら…」

――ねえ?

そんな媚びるような目で、首を傾げてコッチを見るんじゃねぇ…。昼間に快斗に迫られた時と同じような、追い詰められた気持ちを押し隠して、コナンは平静を装った。先日快斗に請われて観に行った、オール3D制作映画に出てきた『長靴の2足歩行をする猫』が、脳裏に蘇った。――コイツも快斗同様、絶対に演技だ。明らかに狙ってやっている。

「『ねぇ…?』じゃねーんだよ…この野郎……」

ドギマギとしたのは――現在も、心臓がバクバクと煩いのは、昼間の快斗の言動を思い出したからだ。決して、この気障で性悪なコソ泥にトキメいた訳ではない。――きっと…多分。

 

「何なら、俺で練習すっか? 『コナン君』?」

――『性少年・お悩み相談「実践編」』ってことで。

にやにやと。何処まで本気か判断の付け難い艶のある笑みを口元に浮かべ、怪盗が見せつけるようにネクタイを引き抜いた。しゅるり、と微かに衣擦れの音。

ごくり、と。唾を飲み込んだ。喉が渇く。いや、それはこの暑さのせいであって、決して目の前のイカレたタチの悪い、ついでに口も性格も根性も悪いコソ泥のせいでは無い。有り得ない。そんなことは、有ってはならないのだ。

「俺を誘惑するんじゃねぇよ…魔王」

何とか、平静な声を出せた…と、思う。コナンの口元に、少し引きつった不敵な笑みが浮かぶ。相手はそんなものに、簡単に騙されるはずもないのだが、何故だかいつも、表面上の言動に律儀に騙されたふりをしてくれる。

「コナン……ほんっと、冷たい…っ! やっぱ俺のこと、もう嫌いになったんだーっ!」

案の定。今回もそのまま常通りの「イカレて戯けた、性悪の怪盗」に一瞬で戻った。わざとらしく顔を手で覆い、泣き真似をしてみせる。そこには最早、先程の一瞬の艶やかさも、蠱惑する空気も、微塵もない。

「――バーロ…! 大体なぁっ、快斗は俺とふたりきりの時は『新一』って呼ぶんだよっ!」

「なるほど。私としたことが…申し訳ない。――では、『次』からはそのように…」

「すんなっっ!!」

 

――お父さん、其処に魔王が居るよ…??(泣)

工藤新一。故あって現在、小学生『江戸川コナン』。彼の苦難はまだまだ続く…?

 

 

QUIT.

GUREKO_wrote.  2004.8.17.


【続・勇者?】(爆)ちなみに【勇者?】での快斗の問題発言は『――じゃあ、手でシテ』だけです(^▽^;) コナンが深読み(暴走)しすぎただけです(笑)

つーか…。一瞬でもこんなシロモノを『感謝の気持ち』などと称して「某所」へ上げようと思った管理人は、既に致命的に道徳や常識といったモノが、コワレ(もしくは欠落して)いるのではないでしょうか…_| ̄|●||| ごめん(汗)管理人の「誘い受け」はこの程度DETH…。根本的に色気が足りん。ブラック無糖…?いやいや、ギャグにしかなりません(*ノノ)

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